昭和47年に発行された 「多肉植物・マニアのための栽培専科」を購入し、読んでみたところ とても興味深かったので紹介・感想を書き留めておきたいと思います。役50年前に 作られた本ですが、現在でも人気のある品種についてや、私が 大好きな実生についても記述がありました。現在の栽培方法との違いや、特に 私が 面白いと思った項目、それに伴い調べたことを 混ぜ込みながら、レビューを書いていきたいと思います。
どんな内容なの?
昭和47年[1972年]に初版された この書は、 多肉植物の素晴らしさから 多肉植物の品種別の特徴解説までの 全8章からなります。当時の栽培マニュアルを 全て網羅しているような内容です。現在の栽培マニュアル本のイメージだと、カラーの写真が多く掲載され、とても見やすくわかり易い感じかと思いますが、こちらは 写真は少なく白黒写真・イラストが多いです。
著者の橋本郁三氏は この本を書いた 昭和47年、日本多肉植物の会・理事を務めていた様です。現在に至るまで 数多くの野生植物の本、山菜の本などを出版しています。
当時 日本では 何が起こっていたかというと、
- 第一次 田中角栄内閣発足
- パンダが来日
- 初心者マークが義務付けられる
テレビでは 「太陽にほえろ」の放送が始まり、和田アキコの「あの鐘を鳴らすのはあなた」・美川健一の「さそり座の女」が ヒットした年でもあります。
そんな時代にも、今の私と同じように 多肉植物に夢中になっていた人がいたのかと思うと、とても感慨深いです。
この本の中では、現在の栽培本と同じような項目で 構成されています。特徴は 1項目の内容がとても詳しく説明されていることです。また、この頃は、おびただしい種類が 輸入され、多くの交配種も作出されていた様です。そのため 多肉植物全般は 手探りでの栽培がほとんどで 「本格的な研究が望まれている」と著者は書いています。
全424ページのこの本、全て紹介したいほど 興味深く面白いのですが 次の項目から 私が気になったことを取り上げていきたいと思います
和名について
昔から日本にあった サボテン・多肉植物は「和名」で呼ばれることが多いです。それは 『多肉・サボテンは学名が長く、一般の人々には覚えづらく ニックネームの様に「和名」が付けられている』とこの書の中には書いてあります。『日本名・和名は、業者・趣味家が勝手気ままに名前をつけている』とも著者は言っています。
また、この書に書かれていたことではありませんが、 和名については 当時の販売方法にも原因があり 1品種につき 複数 名前が付けられていたという話しがあります。その昔、多肉植物は 品種名のみのカタログで 注文・販売されていたそうです。同じ品種でも 取り扱う業者さんが それぞれ 別の「和名」を付けることで 別品種として販売されていたことから このような事態が起き、「呼びやすい・覚えやすい」名前が現在も残っている様です。
「和名」がいくつもある事に対して 著者は「改めなければならない」「輸入された新品種に和名をつけることは慎みたい」と記しています。
実生について
当時は 実験回数が少なく、手探りだったことが伺えます。
多く実生されたのは
- リトープスなどのメセン類
- アロエ・ガステリア・ハオルチア・アガべ
- ガガイモ・ユーフォルビア
- パキポディウム
の順だそうです。1位のメセン類は 日本国内でも種子を採取することが容易なことから 盛んに「実生」されていました。2〜4位は 主に輸入種子を播種していた様で、どれも発芽率は良いとのこと。3位の「ガガイモ」については 自然結実のものを採取、1〜3ヶ月ほど経過したものが 発芽率が良いと書かれています。
実生の用土、方法も、現在のような「断言」はしていないものの、大体同じ過程が紹介されています。鉢が「素焼き鉢」であったり、密閉するために「ガラス」が用いられていたりしますが 現在の実生事情と あまり変わりないという印象です。
品種別紹介
この本の約半分のページをを占めるのが「多肉植物の種類」と題しての 品種別の説明です。
全てが詳しく解説されている訳ではありませんが、「アガベ」などの人気種は 自生地の細かな 平均気温や、品種が書かれています。アガベは 当時から人気があったようで 「日本では栽培が容易」と紹介されています。現在は「チタノタ」が人気ですが、この書の中には 一言も登場しません。
私が 過去に取り上げた「オトンナ」については 『人気はあるものの、ベテラン泣かせ』
「ボウィェア・ボルビリス」は『涼しい季節に育つのが 大蒼角殿』『小型で 初夏によく育つのが 蒼角殿』と紹介されています。
私が好きな「亀甲竜」については『ディオスコレア』ではなく『テスツディナリア』とされています。
- エレファンティペス 『蔓亀草・ツルカメソウ』
- パニクラータ『竜宮蔓・リュウグウツル』
- シルバチカ『亀甲竜・キッコウリュウ』
現在では「亀甲竜=エレファンティペス」が 一般的ですが、当時は『シルバチカ』のことを指しています。「和名について」でも触れましたが、『呼び易い・覚え易い』名前が現在も残っている。とはこの事だな、と感じました。
また、『テスツディナリア』について 輸入株を5〜6年、それ以上管理することは 難しいと書かれています。もし、ここに書かれている通りだったら、亀甲竜好きが故に「相当勿体無い」と 歯痒い気持ちです。
現在は『テスツディナリア属』というものはなく『ディオスコレア属』となっており、いつ変わったのかの記述は見つけられませんでした。1985年初版の他書では『亀甲竜』の和名で「テスツディナリア・シルバチカ」が紹介されており、2004年の「世界の多肉植物」というカラー図鑑では『亀甲竜=ディオスコレア・エレファンティペス』とされています。
属名が変わることはよくあるのですが、和名が指す植物も変わっていたのかと思うと、親しみやすい反面、かなり種が混同されているのではないかと想像してしまいます。
まとめ
今回は 昭和47年・約50年前の 栽培マニュアルを読みました。現在でも人気のある品種が 当時も人気があった事に とてもびっくりしました。当時から「コーデックス」という呼び方も 登場しており 一定層の人気があったのだなと感じました。
また、メセン類の写真が比較的多く、不思議に思っていましたが、「実生」の項目で、『国内での種子の採取がしやすい』とあり、古くから実生で 栽培が続けられていたことがわかり、納得しました。
もう一つ、メセン類に関連したことで 印象に残っていることがあります。それは「栽培の実際」という項目で 各地で実際に栽培されている 植物を解説している箇所があります。例えば、「愛知県はサボテンの生産が多い」という様なことなのですが、その中で 私が住んでいる岩手の地名が出てきました。大体のマニュアル本は、東京などの中心部の気候に合わせての説明が多く、その情報を 東北に当て直して 栽培の参考にします。この項目では 各地の気候にあった 育て易い植物の紹介がされており、「メセン類は東北・長野などが絶対有利」とあり とても新鮮でした。私は メセン類は まだ育てるのに自信がなく、頂き物を 恐る恐る育てていますが、この一文で もっとチャレンジしてみたくなりました。
この感想記事を 書くにあたり サボテン・多肉の歴史についても調べました。サボテンは江戸時代には 輸入されていたとのこと。また、「サボテン」は『仙人掌』と書き、日本語です。英語では「Cactus・カクタス」と言い、一説によるとポルトガル語の「シャボン」に由来すると言われているそうです。そんな サボテンの引き立て役として 多肉植物が輸入されていた様です。
当時は 多肉植物といえば「金晃星」「千代田錦」が知られていたそうですが、「金晃星=エケベリア・プルビナータ」「千代田錦=アロエ・バリエガータ」です。文中には 当然の様に 和名が出てくるのですが、せめて、属名だけでも付け加えてくれたら 楽なのに、と 調べながら 読み進めたため とても時間がかかりました。
栽培法も、 当時はかなり手探りだったのだな、と感じました。現在の 栽培の解説は、言い切る形で かなり確立されている印象ですが、この本を読む限りでは「実験回数が少ないが・・・」「専門家の研究を求める」などの言葉が 数多く登場します。今の栽培情報は 沢山の試行錯誤の上にあるのだとわかり、とてもありがたい限りです。
私は あまり本を買わず、ネットでの情報を参考に 植物を育てています。しかし 過去は 本からの情報が 最先端だったのだと思うと 他の古い書籍も読んでみたいと思いました。
「多肉植物・マニアのための栽培専科」を読んでみたくなった方はこちら。
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